フェルマーの最終定理

 数学という教科に嫌悪感を抱く人は多いようである。
 かくいう私も中学ぐらいまでは、そこまで好きな科目ではなかった。


 そんな数学であるが、実際は結構面白かったりする。 数学をそんなに知らない私ですらそう感じる。
 特に数論とよばれる。 数そのものを考える分野は興味深い。
 
 数年前に話題になった「博士の愛した数式」という本に出てくる話も数論であった。
 例えば「完全数
  その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のことである。(from wikipedia)
  
 具体的には6がそうである。 6の約数は 1,2,3,6である。 その内その数自身である6を除くと1,2,3  その和は1+2+3=6

 となりその数自身と等しくなる。 このような性質を数学者は「美しい」やら「完全である」と表現するわけである。 
 
 これで少しでも数論の面白さを、感じていただけたのではないであろうか?

 さて、この本の主要テーマとなるのは 
       3 以上の自然数 n について、x^n + y^n = z^n となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせがない
     というもので一般に「フェルマーの最終定理」と呼ばれるものである。 ここで^は累乗のことである。
   n=2の時はかの有名な「ピタゴラスの定理」となり成り立つのである。が、それが増えると…
      

 この本ではその歴史的経緯を、様々な数学者の人生や功績と供に綴っている。
 「この問題がどうしてここまで騒がれることになったのか」や「この簡単な式が示す世界の一端」
  を感じさせてくれるよう書かれた傑作である。

 細かい内容にはここでは触れない。



 私がここで一番述べたいのは、
数学の強さと他の学問及び文化の難しさである。
 
 この本のamazonでのレヴューが凄まじい。http://amzn.to/HhwCwS
 最高点の星5つが107、星4つが18、星3つが3である。 (2012年4月3日)
 比較的低評価の方も、「完全に理解できなかった」とか「もっと高度な数学にも触れて欲しい」とかいったレベルで大したことない。
 というのも、証明の最終段階に近い分野の数学はあまりに高度で、一般読者向けには記述しきれないからだ。
 そこを万人に理解させるには、とてもこの一冊では無理だ。 レヴュアーの方々もその辺りは承知のようではあるが…
 


 さて、ここで私が考えたのは他の本で、このようなことがあり得るかということである。
 
 内容的には一つの大きなテーマを設け、その基礎となる話を学問的面とそこに関わった人々の伝記的面とで積み上げられており、
単純に面白さがある。
 さらに、一人の人物に特に集中してスポットを当てているわけではないので、文句もつけにくい。

 そして扱う学問が数学という最も論理的なものである。それ故に、実社会や人それぞれの感性の入り込む余地がない。
 つまり、好き嫌いや文句のつけようがないのである。


 
 一方で、文学や社会科学等は、人それぞれの価値観や好き嫌いが入り込みやすい。
 だから、どんなに多くの人に支持されていようとも、文句をつける人が後を絶たない。

 これは非常に面倒なことではある。 
 自分自身の信念と論理性を駆使して作り上げたモノが、大したことないレベルでの批判を受け得るのである。 
 そして、それに対する明確で絶対的な反論は成り立ち得ない… 何とも悲しい。 むなしい。
 
 しかし、そのような脆弱さを百も承知で、必死でもがくのが美しく素晴らしいのだろう。
 一人でも多くの人に届くことを伝わることを信じ、ベストを尽くすのである。
 そして、批判者に対しても寛容にそのアティチュードを変革できるよう、努める。

 私もそのような人でありたいものである。

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)